あらまぁ
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2025/10/11 (Sat) 01:15:23
AI新興のオルツ元社長ら逮捕 111億円粉飾決算疑い
東京地検特捜部は9日、架空の売り上げを計上し粉飾決算したとして、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで、東証グロースに上場していた「オルツ」の元社長米倉千貴ことカン・チョンキィ容疑者(48)や最高財務責任者(CFO)だった日置友輔容疑者(34)ら4人を逮捕し、東京都港区の本社を家宅捜索した。
同社は人工知能(AI)のスタートアップ(新興企業)。特捜部は2024年12月期までの3年間の通期で売り上げの8割超に当たる計約111億円を水増ししたと判断した。
同社の第三者委員会の調査報告書によると、主力商品の議事録作成サービス「AI GIJIROKU」の販売を巡り、同社は広告会社に広告宣伝費などの名目でいったん支出。その後、広告会社を通じて「スーパーパートナー」と呼ばれる販売事業者から売上代金として回収する「循環取引」をしていたという。
オルツは14年設立。24年10月に東証グロースに上場した。
オルツ、黙殺された内部告発 「これはクロ」上場前に警告した元部長
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2025/10/11 (Sat) 01:20:33
2025/10/10 05:00 日経速報ニュース
人工知能(AI)開発の新興企業オルツ=8月に上場廃止=の不正会計問題は、東京地検特捜部が同社元社長の米倉千貴容疑者(48)や前社長の日置友輔容疑者(34)ら4人を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載など)容疑で逮捕する刑事事件に発展した。同社の不正会計について、公認会計士の資格を持つ経営企画部長が2022年9月段階で気付き、米倉氏や日置氏ら経営陣に不正を止めるよう進言していたことが日本経済新聞の取材でわかった。しかし進言は聞き入れられず、部長は退職した。
日本経済新聞は9日までに、この元経営企画部長の塩川晃平氏にインタビューし、不正な循環取引に気づいた経緯や当時の経営陣の対応、その後も長らく不正を見抜けなかった監査や新規上場審査の課題などについて聞いた。塩川氏は証券取引等監視委員会にオルツの不正について情報提供し、今回の事件が発覚するきっかけのひとつにもなった。(聞き手は日経リスクインサイト編集長 植松正史)
中途入社直後に不信感
――どのように不正に気づき、告発されたのでしょうか。
「私は2022年9月1日、オルツに経営企画部長として中途入社しました。入社直後に、架空循環取引が行われていることに気づき、当時社長だった米倉氏や最高財務責任者(CFO)だった日置氏に事情を聴いた上で、当時の常勤監査役にも不正を止めるよう働きかけました。しかし聞き入れられなかったため、9月末で退職しました。その後は他の大手企業で働いていましたが、24年10月にオルツが上場した際に気になって公開情報を調べたところ、当時からの架空循環取引が継続していることを確信しました。問題だと思い、監視委の情報提供窓口に告発し、調査に協力してきました」
――オルツに中途入社後、すぐに不正に気づいたのですか。
「私のポジションは日置CFOのすぐ下でした。入社後、業務をキャッチアップするために売り上げの構成比率など様々な数字をみているうちに、『おかしいぞ』と疑いを持ちました。そこで自主的に社内の関連資料やデータを集めて分析し、入社して最初の1週間ほどで不正な循環取引が行われていることを確信しました。すぐに監査役や経営陣に指摘し、不正を止めさせようとしましたが、無理でした」
「実は私はオルツに入社前は、大手監査法人で不正調査を担当するチームに所属していました。転職直前まで、別の企業の架空循環取引問題の調査に携わっていたため、架空循環取引に特有なお金の流れなどには詳しかったと思います。ですがまさか、転職先が架空循環取引をしていたとは夢にも思わず、がくぜんとしました。オルツは22年当時、AIスタートアップの有望株として注目されている存在でした」
――オルツの経営陣は、塩川さんが調査のプロということを知りながら採用したのでしょうか。
「中途入社の面接で、循環取引問題の調査経験があるということは伝えました。私に詳しい知識があることを、米倉氏や日置氏らは認識していたと思います。後から振り返ってみると、循環取引をいかに『シロ』っぽくみせるために私の経験が役立つのではないかというような、逆の意味での期待を持たれていた可能性はあると思います」
「レッドフラッグ」続々
――オルツ入社後に不正を確信するまでの経緯を詳しく教えてください。
「入社直後から、不正を示すようないくつかのレッドフラッグ(危険信号)が立っているのが目に入り、それをひとつひとつ調べていったという流れです」
「当時は、前任の監査法人がオルツの監査人を辞任すると決めた直後でした。その際、この監査法人がオルツ側に対して監査を降りる理由などについて説明する『マネジメントレター』という文書があるのですが、そのレビューが私の最初の仕事のひとつでした。監査法人から提示されたレターの下書きには『循環取引ではないことについての十分な監査証拠が入手できませんでした』という文章がありました。それが最初のレッドフラッグでした」
――他にも不自然な点がありましたか。
「次に目についたのは会計上の数字の不自然さです。私は損益計算書(PL)のデータを月次で整理していきました。オルツは(議事録作成サービスの)『AI GIJIROKU』が主力の製品でしたが、この売り上げが多い4つの取引会社と、それぞれに相関するように同じく4つの広告宣伝会社への広告宣伝費の支払いがあることに気づきました。広告宣伝費としてオルツ側から支払われたお金が、製品を購入する原資になっているのであれば、循環取引の疑いが強くなります。数字を整理していくと、4つの『循環の輪』が浮かび上がりました。循環取引をしているのではないか、という不信が膨らみました」
「そこで、そういった怪しい数字に関係する販売会社をもっとよく調べると、明らかに(クラウド経由でソフトウエア製品を提供する)SaaS(サース)を売っているような会社ではないようなところが目に付きました。例えば、本業はノベルティーグッズの製造・販売をしているような会社や小規模なイベント会社が、AIツールであるAI GIJIROKUを毎月数千万円分も売っていることになっていたのです。『あり得ない』と思いました」
「自分なりに調べているうちに、『この製品は、本当に売れているのか』という疑問も膨らんできました。当時、売り上げでみると日本国内の類似サービスで業界トップレベルのはずでした。それなのにネット上でユーザーからのレビューは極めて少ないし、たまに見かけてもすごく厳しい内容だったのです。そもそもこの製品はオルツ社内ですら、全然使われていませんでした。とても違和感を覚えました」
「さらに広告宣伝費も、月次で数億円単位で使っているのにもかかわらず、実際には広告を全然みかけなかったのです。これも不自然に感じました」
――次々に不正の「フラグ」が立つ中で、どのような気持ちだったのでしょうか。
「最初は『何かの間違いだろう』『間違いであってほしい』という気持ちが強かったです。自分の中で『循環取引ではないか』という疑念が生まれているのですが、一方でそれが的外れであるという証拠を見つけたくて、自分なりの調査を進めていったというのに近かったかもしれません。しかし結局、調べれば調べるほど疑いはどんどん強まりました。社内の共有フォルダーからはスキームの管理表のようなファイルまで出てくる始末でした。スキームの管理表というのは、毎月、いつごろまでにどの社のどの担当者に連絡をしてお金を支払うかということを細かく整理しているような表です」
「またAI GIJIROKUのユーザーと思われるメール一覧をみたところ、メールの大半は@マークより前の部分が数字やアルファベットのランダムな組み合わせに過ぎないgmailとなっていました。実際にはユーザーにほとんど使われていないのではないか、という疑念が深くなりました」
「結局、9月第2週の半ばごろには私は『この会社は99%、循環取引をやっている』という考えになりました」
経営陣は「黙殺」
――その後、経営陣に不正を止めるように働きかけましたか。
「循環取引のことを最初に話した相手は、常勤監査役でした。22年9月9日の金曜日午後3時のことです。『調べたらこんなの(循環取引をやっている疑いが強い証拠)が出てきました。どうしましょうか』などと伝えました。監査役は『全然知らなかった。寝耳に水だ』というような反応でしたが、どこまで深刻に受け止めてもらえたかはわかりませんでした。すぐに社内で対応に動きそうな雰囲気でもなかったので、私から『もうちょっと調べて、CFOの日置さんなどとも話します』ということを申し出て、ミーティングが終わりました」
「そして翌週の12日月曜日に、CFOの日置氏とオンラインミーティングをしました。日置氏にも、自分なりに調査した内容を伝え、問題がある取引であるということも指摘しました」
「日置氏は外資系の投資銀行などを経て21年10月にオルツにCFOとして中途入社した経歴があります。私からの指摘に対し『このモデルは自分が入社前からやっている。入社後、自分も、おいって思った気がする』とか『グレーだけれども、対外的にはクロではないという見せ方をしている』などと説明していました」
「また日置氏の個人的な考えとして『(同じような取引を)米国や日本の大手企業もやっていると思う。ただどう見せるかが大事だ。対外的に見せ方を整えることができるかを、しっかりと塩川さんの知識を加えてハンドルしてもらえるとありがたい』などの発言もありました。結局、日置氏とのミーティングは平行線に近い形で終わりました」
「同日、常勤監査役と再び話をしました。私からは『これはクロだと思っています』と伝えたうえで『事実関係を確認して、社外の専門家も入ってもらった形で社内調査委員会も立ち上げるべきです。調査業務は私がやります』と申し出ました。また『このままだと事業としても成り立たなくなってしまう。(AI GIJIROKUの)アカウントのうち一部は生きているものもあるので、それを運営できる程度の最少人数に事業を縮小していく必要もあります』とも指摘しました。しかし監査役は『けしからん事態ですね』と言いながらも、何もアクションを起こそうというそぶりはみせませんでした」
――その後はどのように動かれたのでしょうか。
「引き続き自主的な調査を進めつつ、並行して日常業務もこなしていきました。9月半ばは、投資家の方々や証券会社への挨拶やミーティング、夜の会食などもありました。特に前任の監査法人が辞任したばかりのタイミングだったため、『大丈夫?』と聞かれたり『塩川さんが来てくれて、本当によかった。これで安心です』と声を掛けられたりすることもありました。それに受け答えするのがとても心苦しかったです」
「そのとき私は内心でオルツが不正な循環取引に手を染めていて、売り上げの大半は架空であると確信しているわけですから。しかし、そんなことを口に出せるわけもなく、かといって噓もつきたくない。『頑張ります』などと曖昧に対応するしかありませんでした」
――この時期は、後任の監査人に監査法人シドーが決まった時期とも重なります。
「オルツが次の監査人としてシドーを選定した過程は、全国の監査法人のリストをもとに、監査法人を規模別に並べ直し、基本的には規模が小さいものから選ぶというものでした。他の細かい条件も考慮したうえでシドーに絞り込まれました。詳しい選定基準は忘れましたが、最大の理由は『小さいから』でした。最終的にはCFOなどが決めましたが、こちらの言うことを柔軟に聞いてくれやすいという判断があったことはほぼ確実だと思います」
――循環取引について、当時の米倉社長とも直接話しましたか。
「はい。日置氏とのミーティングなども踏まえ、社長と直接話したほうがいいと思ったからです。米倉社長は多忙だったためなかなか時間が取れず、ミーティングは9月20日になりました。私は自分で調べたことを示し、不正な循環取引にあたるという考えも述べたうえで『社長はどのように思われているのですか』と聞きました。すると社長からは『これは、サブスク2.0という仕組みだ』という説明が返ってきました。その仕組みを説明するスライド資料も見せられました。要するにAI GIJIROKUの販売代理店に確実に年間売り上げ10億円を達成してもらうために、オルツから代理店側に広告宣伝費を12億円出す。そうやってお金をぐるぐる回すことで、年間売り上げ目標が達成できるというような内容です」
――それは、不正な循環取引そのものではないのですか。
「その通りです。しかし米倉氏は『このスキームは、とある公認会計士にもチェックしてもらってOKをもらっている』というような説明もしていました。ただ、本当にOKをもらっていたのかどうかはわかりません。私も公認会計士ですが、まともな会計士であればとても認められないと思うからです」
「とりあえず、『わかりました』とだけ答えてミーティングを終わりましたが、その直後に私は退職する決意を固めました。社長もCFOも、この取引をやめるつもりがないことが明らかに感じられたからです。自分としては『今の不正な取引の状況を、なんとか正常な取引に変えていって、オルツを正常化する道はないか』ということも考え、悩みましたが、最後まで妙案を思いつくことはできませんでした。社長とのミーティングの2日後の9月22日にはCFOの日置氏に退職の意向を伝えました」
――退職すると伝えた時の日置氏の反応は、どうでしたか。
「社内の(チャットツールの)スラックで日置氏から『この後、オルツはどうなるのか』と聞かれました。私は『循環取引はやめるべきだと思います』と答えました。さらに『最悪のケースはどうなるの?』と質問されたため、『最悪の場合、当局の調査が入って刑事事件になり、経営陣が処罰されます。その後、株主代表訴訟に発展して、賠償責任も生まれます』という内容を返信しました。ただ、それに対する日置氏からの再返信はありませんでした。その後のやりとりは、別の話題に切り替わりました」
――そのまま、何もせずに退職されたのですか。
「いえ。実は退職前に常勤監査役には、それまでに自分で集めたデータやまとめた資料を全部渡しました。しっかり対応してもらいたかったからです。監査役はそのとき『対応する』と言っていましたが、結果的には動きはありませんでした」
「その後、11月には別の大手企業に入社しましたが、オルツのことは気になっていたので半年ほど様子をみていました。ところが何のニュースも出ないので、『監査役は動かなかったのか』と残念に思いました。そこで23年のはじめごろ、警視庁の情報提供の窓口にウェブ経由で通報しました。その後、警視庁から反応があり、経済犯罪の捜査員の方に事情を聴かれて、不正の概要や数値をまとめた資料も渡しました。ただ最終的には『被害届も出ておらず、被害者もいないので動けない』という内容の連絡を受けました。個人で動くことの限界も感じ、それ以上の行動はあきらめました」
上場後も「まだやっているな」
――その後、24年10月にオルツが東証グロース市場に上場しました。
「オルツ上場のニュースを聞き、いったんは『(自分がいた22年9月からは)それなりに時間もたっているし、もしかしたら不正な取引は解消されているかもしれない』とも思いました。ただどうしても気になったので、開示資料を調べました。すると、主要な売り上げ先の中には当時と同じ顔ぶれの会社も並んでいるし、売り上げと広告宣伝費が連動している様子も見て取れました。すぐに『あ、まだやっているな』ということが分かりました」
「その後、自分がどのように動くのか悩みましたが、オルツが上場後に非常に積極的に対外的なPRをしているのが引っかかりました。売り上げの実態がないにもかかわらず上場し、さらに株価をつり上げているのは、社会的にも問題ではないかという思いがありました。かつて必死に指摘したにもかかわらず、聞き入れてもらえなかったという個人的な悔しさもなかったとは言えません」
「それで24年11月に、まず日本証券取引所グループのウェブサイトの情報受付窓口のページから情報提供しました。そのページには監視委の情報提供窓口へのリンクがあったので、監視委にも通報しました。すると監視委の担当者から連絡があり、その後、調査に協力していきました」
違和感の放置が背景に
――25年4月、オルツに対して監視委の調査が入り、その後、外部弁護士らで構成する第三者委員会の調査報告書も公表され、不正が表面化しました。ただし第三者委の報告書では、監査法人や主幹事証券会社、東証などあらゆる外部の人が、オルツ側の巧妙な隠蔽工作にだまされて不正を見抜けなかったという構図が描かれています。本当に、外部から見抜くことは難しかったのでしょうか。
「私がもともと内部の人間として不正に気づき、内情を知っていたからそう思ってしまうのかもしれませんが、率直に言って『わからないはずがないだろう』と感じます。現に、最初の監査法人は見抜き、循環取引という言葉も使って指摘したうえで監査人を辞任したのです」
「おそらくオルツに関わった多くの人たちは、多かれ少なかれ『違和感』のようなものを感じたのではないかと思います。ですが、誰もがその違和感を深掘りせずに放置した結果、そのまま上場に至ってしまったのではないでしょうか」
――今回の事件は、日本の新規株式公開(IPO)や監査制度のあり方についても課題を投げかけています。
「外部からチェックをする立場の人たちにお伝えしたいのは、数字とか資料も大事ですが、何よりも『実態をみる』ことが必要だということです。今回でいうと、書類や数字のつじつまは合っていても、販売会社をよくみれば不自然な会社が混じっていたのがわかりました。そもそもAI GIJIROKUがビジネスの現場で使われているのをほとんどみかけないというのが実情でした。オルツ社内ですら、ろくに使われていなかったのです。こうしたことを誰も気にしなかったのは、問題だったと思います」
「一方で、今回のオルツの事件を受けて、人工知能(AI)スタートアップ全体が色眼鏡でみられかねないということをとても心配しています。今回のような悪い経営者はほんの一部で、今の経営者の多くは頑張っています。そこをきちんと理解してもらいたい、ということも同時に伝えていきたいと思っています」
――企業の不正が内部告発によって明るみに出るというケースも少なくありませんが、告発者自身の負担も非常に重いとも言われます。塩川さんご自身、どのように感じられていますか。
「かつての私と同じように不正の渦中で苦しんでいる人がおられるのであれば、『どうか、一人で抱え込まないでください』と伝えたいです。正しいことをしようとすればするほど孤独になり、リスクが高まる。この社会の矛盾を、私は身をもって知りました。ですから、もし同様の状況にある方がいらっしゃるのなら、まずはご本人の心と体の安全が、何よりも優先されるべきであり、正義を貫くことよりも、まずあなた自身を守ることが大事だと伝えたいです」
「その上で、もし行動を起こす決意をしたのなら、まず『いつ、誰が、何をしたか』を客観的な事実として時系列で記録に残すことをお勧めします。そして、相談相手は慎重に選んでください。企業の通報窓口だけでなく、あなたのプライバシーを守ってくれる公的な相談窓口や、労働問題に詳しい弁護士など、社内の利害関係から独立した第三者という選択肢を忘れないでほしいです。勇気を振り絞って上げた声は必ず社会を動かす力になります。しかし一方で、声を上げずに自分を守り抜くこともまた、同じように尊い選択です」
――塩川さん自身は、今後、どのような立場で活動されますか。
「25年8月から、私が大手監査法人の不正調査チームに在籍していた時の同僚が独立して立ち上げたスタートアップにCFO兼COOとして入社しました。不正調査のノウハウを学習したAIが、社内のメールなどの情報を読み取って社内不正の兆候を検知するサービスを提供する会社です。オルツを退職後、国内の大手企業に就職し、それなりに大きな仕事も任されていました。そのままその企業で働き続けるという将来もあり得たと思います。ただ自分が監視委に告発し、その後オルツの問題が世の中の注目を浴びるのを見ていく中で『自分は今後も不正調査の世界にずっと関わっていく運命なのかもしれない』という思いが強まりました」
「振り返ってみると、私がオルツに入社したのは監査法人が交代する重要なタイミングでしたし、そこに循環取引の不正調査の経験がある自分が入ったということには何か意味があったようにも思えます。当時は不正をすぐに止めることができませんでしたが、今後、不正検知や予防という分野で自分が果たすべき役割を見つけていきたいと考えています」
【聞き手から】「チェックの目」はなぜ働かなかったか
オルツの粉飾決算事件は、売り上げの大半が架空だったなど同社の悪質性に注目が集まる。一方で、監査法人や主幹事の証券会社、ベンチャーキャピタル(VC)、東証などのプロがいずれも「不正を見抜けなかった」という事実も重い。スタートアップのエコシステムや上場審査のあり方を巡る課題を投げかける。
東京地検特捜部はオルツ元社長の米倉千貴容疑者(48)や前社長の日置友輔容疑者(34)ら、オルツ関係者の4人を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載など)容疑で逮捕した。ただ全体の構図に関係するのは、この4人にとどまらない。
例えば7月に公表された第三者委員会の調査報告書には、循環取引のスキームに広告代理店が関与したことが描かれている。報告書はさらに、オルツ側の虚偽の説明や改ざんされた資料により、監査法人などが不正を見抜けなかったとする。
事件の告発者となった塩川晃平氏の受け止めは少し違う。今回のインタビューでは「違和感を感じた人は多いと思うが、誰もがそれを深掘りせずに放置したのではないか」と指摘した。
違和感の放置の裏側に「他社も取引しているから大丈夫だ」という油断はなかったか。オルツは多くの大企業との協業や経済産業省のAIプロジェクトへの採択など華々しい事業展開をアピールしていた。ある企業経営者(50)は「名だたる企業や国に認められている会社というイメージがあった」と話す。
今回の事件は2010年のエフオーアイ(破産)の粉飾決算事件との類似性も指摘される。同社は上場6カ月後に粉飾決算疑惑が発覚し、最終的には元社長らの実刑判決が確定。当時の主幹事証券会社にも賠償責任が認められた。
オルツの場合、監査法人シドーや主幹事の大和証券、上場審査を担当した東証などにも今後、民事上の賠償責任や道義的な責任が問われる可能性がある。
再発防止のため、不正を見過ごさないための改善点はどこにあるのか。金融庁で企業不正の監視に長く携わった佐々木清隆・一橋大大学院客員教授は「細かいルールのチェックだけに目を奪われると、不正を見抜くための大きな視点を失いかねない。違和感を感じても『クロとは言い切れない』などとためらうことにもつながる」と指摘する。「ビジネスモデルの全体を理解し、持続可能で健全なビジネスなのかという問題意識でチェックすることが大切だ」と話している。