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2025/10/09 (Thu) 18:40:35
ドル円、金利差縮小と連動せず 通貨下落を想定「ディベースメント取引」
外国為替市場で円相場と日米金利差の乖離(かいり)が広がっている。「日銀は利上げ、米連邦準備理事会(FRB)は利下げ」という金融政策の方向性があるなかで、両国間の金利差縮小は教科書的には円買い・ドル売り要因となるはず。だが、ここにきてその連動性が低下している。拡張的な財政政策を志向すると市場で評価された高市早苗・自民党総裁の誕生をきっかけに、通貨価値の下落を前提にした投資戦略である「ディベースメント取引」の主役に円が浮上したためだ。
国内債券市場では長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが1.7%台に迫っており、2008年9月のリーマン・ショック発生直前の水準に戻りつつある。日米の長期金利差(複利)は今年前半に3%を超えていたが、国内金利の上昇傾向とともに8日時点では2.4%程度になっている。0.5%強の差は小さくない。
ところが足元では円売り・ドル買いの勢いが増している。高市氏の積極財政や金融緩和の姿勢が日銀の政策正常化の遅れや将来の財政悪化に伴う「悪い金利上昇」などを連想させ、投機的な円売りが一気に膨らんだ。損失覚悟の円売りも相次いで巻き込みつつ、円は9日の東京市場で1ドル=153円台前半と2月以来の円安・ドル高水準を付けた。
2月時点の日米の長期金利差が3%台前半だったのを考慮すると、金利差縮小の傾向に反して円安・ドル高が進行している。「ドルの対円相場と日米金利差の逆相関が強まりやすくなっている」(東海東京インテリジェンス・ラボの柴田秀樹金利・為替シニアストラテジスト)と判断せざるを得ない状況だ。
為替取引をメインとする投機筋にとってディベースメント取引の汎用性は高い。悪材料の出た通貨を売って相場のモメンタム(勢い)を作り、為替差益を積み上げていく。前週までの円はドルの不安要因と綱引きしていたが、自民党総裁選での高市氏勝利によってバランスが崩れた。
高市氏が安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」を継承する公算は大きいとして、財政リスクを反映しやすい超長期金利には先高観が生じている。東海東京インテリジェンス・ラボの柴田氏は「超長期金利の上昇は高市氏の総裁就任に伴う財政悪化懸念が背景とみられ、同氏が『責任ある積極財政』を標榜していても具体策が乏しい。海外勢が同氏の経済政策を『アベノミクス 2.0 』と捉え、円売りで反応するケースが多い」と指摘する。
日銀の利上げ観測を背景に円買いを積み上げてきた投機筋は撤退を余儀なくされているはずだ。米商品先物取引委員会(CFTC)によると、投機筋を示す非商業部門の円の買い持ち高は直近9月23日時点で17万枚を超え、歴史的な高水準となっている。過去に利上げに否定的な見解を示した高市氏の就任をきっかけに「円のロング(買い持ち)を解消する動きが増えている」(国内証券の為替ストラテジスト)との見方が出ている。
投機資金による円売りは主に為替差益を狙っていくものだが、結果として金利収益もたまっていく。24年の円相場を160円まで押し下げた円キャリー取引(低金利の円を売ってドルなどの高金利通貨を買い持ちにする戦略)が事実上活発化しているとの受け止めも市場には少なくない。
円売りがこのまま続いた場合の円の下値メドはどこか。「さしあたっては155円程度」(あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジスト)との予想が聞こえてくる。
〔日経QUICKニュース(NQN) 加治屋雄基〕
株4万8000円、「ディベースメント取引」が誘う株高
9日の東京株式市場で日経平均株価は反発し、節目の4万8000円を上回って推移している。外国為替市場では6~8日の間に円相場が急落した。市場でささやかれるのは、法定通貨の価値下落を前提とした投資戦略である「ディベースメントトレード(通貨価値切り下げ取引)」の活発化だ。インフレリスクの回避(ヘッジ)目的の資金が日本株に流入している可能性が指摘されている。
日経平均は8日まで3日連続で取引時間中に4万8000円を上回ったが、終値では維持できなかった。きょうは4回目の挑戦となる。8日の米株式市場ではナスダック総合株価指数が反発し、最高値を更新。東京市場でも米ハイテク株高の恩恵を受けやすいソフトバンクグループ(SBG)が上場来高値を更新した。
米国で話題になっているのが、ゴールドマン・サックスのグローバル株式戦略責任者ピーター・オッペンハイマー氏が8日付で出したリポートだ。タイトルは「なぜ我々はバブルに陥っていないのか…まだ」――。市場の一部で高まっているバブル懸念を払拭する内容だ。
オッペンハイマー氏は「米ハイテク株の上昇には非合理な投機性はなく、将来の高い成長に対する期待がけん引している」と主張する。株価が大きく上昇した企業ほど強固なバランスシートを有している点などを挙げ、「ハイテク企業のバリュエーション(投資尺度)はやや過熱気味だが、過去のバブルでみられた水準にはまだ達していない」と結論付けた。
また同氏は、株式市場全体でバリュエーションが高まっている点にも触れた。「足元の世界的な株高はハイテクバブルではなく、低い金利や高い貯蓄率、長期化する景気拡大が根底の理由にある」という。
世界の金融環境は大幅に緩和している。ゴールドマンが株式や債券など各金融市場動向からまとめる金融環境指数(FCI)は4月以降、右肩下がりだ。米国や日本を含む「先進国・FCI」は引き締めと緩和の境目となる100を下回り、今週には3年ぶりの低水準を付けた。
FCIと株価は連動性が高く、FCI低下は株高につながりやすい。株高はFCIをさらに押し下げる。先進国・FCIの今年に入ってからの低下分の8割強は株高が寄与している。
FCIの低下と株高が相互に影響するいわゆる「リスクオン」相場で、ヘッジファンドの運用成績は好調だ。米調査会社ヘッジファンド・リサーチ(HFR)が算出するヘッジファンドの運用成績を示すグローバル・ヘッジファンド指数は今年に入りプラス6.0%と好調が続く。特に相場の流れに乗った順張り戦略を取る「マクロ・CTA」の好調が目立つ。
運用成績が好調なところで、積極財政と金融緩和を志向する高市早苗氏が自民党新総裁に就任したことは、ヘッジファンドが円売りと日本株買いを加速させる格好の材料になった可能性が高い。ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルのチャーリー・マケリゴット氏は8日付のメモで「投機筋による(お好みの)通貨での切り下げ取引が主流で、金や銀、ビットコインなどの急騰が加速している」と説明した。
4日の自民党総裁選のサプライズ以降、「日本円は最大の『敗者』の状況が続いている」とも説明。円がディベースメントトレードの最大の標的になっており、その裏側でリスク選好の世界的な株高が発生しているとの見立てだ。
ディベースメントトレードはドル安ヘッジとして金の買いを積み上げていく手法がよく知られている。低金利の円を売って高金利通貨建てなどのリスク資産を買い持ちにする円キャリートレードのような金利狙いの戦略とは異なるが、通貨安による為替差益を狙う点は共通する。
高市総裁は政権を発足させるための連立協議を続けている。だが、公明党との連立協議の合意は持ち越しとなり、首相指名は20日以降に遅れる見込みだ。国内政治の不透明感の高まりは教科書的には円安要因だ。
政治懸念からの通貨安は本来、好ましいものではない。だが、ディベースメントトレードが一段と活発化するようなら、手放しでは喜べない想定外の株高が継続する、ゆがんだ状態が強まるかもしれない。
〔日経QUICKニュース(NQN) 張間正義〕