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2025/09/05 (Fri) 09:59:49
米株トークン、見切り発車 米欧、未上場銘柄も対象に 規制・投資家保護は未整備
デジタル資産の「トークン」として取引される株式に連動した金融商品が海外で広がりつつある。米ネット証券大手ロビンフッド・マーケッツは6月末に取り扱いを始めた。ブロックチェーン(分散型台帳)上で「株式」を迅速に売買できる利点があるが、投資家保護などの規制が未整備のままの見切り発車には懸念も強まっている。
「金融商品取引に変革をもたらす」。ロビンフッドのブラッド・テネフ最高経営責任者(CEO)は強調する。エヌビディアやアップルといった米国株、上場投資信託(ETF)や、オープンAIなど未上場株を含む200銘柄以上のトークンを取引できるサービスを始めた。まず欧州連合(EU)加盟国に住む人が平日ならいつでも取引できるようになった。
投資家は株式を直接保有せず、その価値を表すトークンを保有する。ロビンフッドのアプリから購入したい銘柄の注文を出すと、米国の証券会社がニューヨーク証券取引所(NYSE)などの従来の株式市場で当該株を購入。株の価値に連動するトークンを発行し、利用者のウォレット(電子財布)に送信する。
一般の投資家が通常は保有できない未上場株についても、未上場株を保有する特別目的事業体(SPV)へのロビンフッドの出資持ち分をトークン化し、間接的に投資できるようにしたという。
暗号資産(仮想通貨)などブロックチェーンで流通するデジタル資産を保有する投資家にとっては、株もチェーン上で取引を完結させられる利点がある。価値が米ドルと連動するステーブルコインなどを使い、法定通貨を介さずに迅速に株の売買ができる。
米仮想通貨交換業大手コインベースも同様のサービス開始に向け、米証券取引委員会(SEC)に認可を申請。同社は「エブリシング・エクスチェンジ(あらゆる資産の取引所)」構想を掲げる。ブロックチェーン上で株も含む様々な金融商品を取引できる環境の提供を目指す。マネックス証券の松嶋真倫・暗号資産アナリストは「コインベースの申請をSECが受理すれば、他の金融機関の参入に弾みがつく可能性がある」とみる。
一方、未成熟なデジタル資産であるため、リスクへの懸念も出ている。
ロビンフッドは株式トークンを、EUが2018年に施行した第2次金融商品市場指令(MiFID2)に基づくデリバティブ(金融派生商品)と位置付ける。機動的な売買や配当に相当する金額を受け取ることはできるが、議決権は付与されず、株式に転換して受け取る権利もなく、株式そのものとは異なる。
規制は未整備だ。ロビンフッドは株式などをトークン化した金融商品について「規制上の不確実性が残る」と指摘。「MiFIDを順守していると考えているが、規制当局が当社の結論に同意するかは保証できない」と投資家向け報告に明記している。当局から問題視されれば、ロビンフッドは罰金や事業活動の制限を受ける可能性もある。
株式を発行する企業の同意が必ずしも得られていない事情もある。オープンAIはX(旧ツイッター)で「ロビンフッドとの提携はなく、承認していない。注意してほしい」との声明を出した。企業側の主張により「SPVの権利の喪失または毀損につながる可能性がある」(ロビンフッド)。
証券取引所の国際団体、国際取引所連合(WFE)は8月、株式トークンを取り締まるよう証券規制当局に求めた。株式と同等ではないとの懸念を表明。EU規制当局も9月1日、株式トークンは「投資家の誤解を招く可能性がある」との見解を示した。
株式トークンの世界市場の規模は、RWA.xyzのデータでは3億~4億ドル程度だ。100兆ドル超の規模がある世界の株式時価総額に比べればわずかだ。流動性は乏しく、実際の株価と乖離(かいり)するケースもある。例えばアップル株やアマゾン・ドット・コム株に連動するトークンの価格は7月上旬、実際の株価よりも大幅高になる場面があった。
米証券ミラー・タバックのチーフマーケットストラテジスト、マシュー・マリー氏は「迅速に決済できる株式トークンは成長性を秘める。しかし、ハッキングに対する脆弱性など解決すべき課題は多い。議決権がなく流動性も乏しい。主流資産となるには数年かかる」とみる。
(相松孝暢)