GPIFは日銀ETFの受け皿か どうする「買っちゃった物」(永井洋一) - Geronimo URL
2024/12/03 (Tue) 09:26:40
2021年3月。日銀は「年6兆円」としていた上場投資信託(ETF)の買い入れ目標を取り下げた。異次元緩和の一環であるETF購入を見直すとの事実上の「宣言」だった。
当時、市場の一部には次のような議論もあった。「株式相場が投機的な買いで急上昇した場合、日銀はETFを売り、ボラティリティー(予想変動率)を下げる操作(売りオペ)を政策手段に加えるべきではないか」。
ETF購入による株式市場の価格形成機能への悪影響や「出口(ETFの始末)」の難しさは、黒田東彦総裁(当時)が異次元緩和を始めた13年春当時からあった。日銀はそれを11年以上、頰かぶりしてきた。出口論はこれまで市場で事あるごとに語られたが日銀は一切、口をつぐみ、議論を封印した。
冒頭の21年3月の日銀金融政策決定会合後に公表した「政策点検」では、ETFの購入について「市場の不安定な動き(ボラティリティー)を抑制し、市場が大きく不安定化した場合に大規模な買入れを行うことが効果的」と結論づけた。市場参加者の間では不安の声が増えていたが、黒田日銀は断固、正当化した。
それから約3年後の24年1月。黒田氏から日銀総裁職を引き継いだ経済学者の植田和男氏は、金融政策決定会合後の記者会見で日銀が購入したETFについて思わずこう口走った。買っちゃった物――
日銀内にはETFの分配金収入を債券取引損失引当金に活用する案があるといわれる。自己正当化の保身論に聞こえるが、結果オーライに違いはない。
「物価をコントロールするには、国債を売買するよりも株式を売買する方が効果的だ」という意見もある。これには一理あるが、植田氏の言い回しは、こうしたETF擁護論を退け、中央銀行にとっての「厄介物」だということを、市場参加者に連想させた。植田氏は中銀のオペ対象について著書「ゼロ金利との闘い」で「株式や社債のように個別性の高いものは適当ではない」と言及している。
「実質固定株」化した時価70兆円に上る日銀のETFは、東京株式市場の流動性を損ない、株式相場の乱高下を招く一因となっている。これは疑いない。上場企業に資本効率の改善を求め、家計に株式投資を促す「国策」を進めるなか、その障害となる日銀保有のETFは、もはや出口論を先延ばしすることは許されない。
「実質国有化」した株式をどうするか。東京海上アセットマネジメントの平山賢一氏の著書「日銀ETF問題」によれば、日本は太平洋戦争中、株価維持機関を使って株式を購入し、相場を下支えした。こうした「凍結株」の時価総額全体に占める割合は1945年に6.4%に達した。戦後、凍結株は売りに出されたが、いまとは比べるべくもないインフレと企業業績の急拡大を背景に市場で円滑に吸収された。
日銀のETFは7%強。戦時中の凍結株を上回る。
時計の針を再び3年前に戻す。市場で語られた出口論の中に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)への簿価譲渡案があった。
GPIFが保有する国内株式は24年9月末時点で60.6兆円。年金積立金資産の全体に占める割合は23.98%だ。仮に上限である33%まで組み入れを引き上げた場合、現在のポートフォリオ上では83兆円まで増やすことができる。
厚生労働省は2日、GPIFの「実質的な運用利回り(名目賃金上昇率超過分)」の目標を現在の1.7%から1.9%に引き上げる方針を示した。01年度からの実質運用利回りを現在の基本ポートフォリオで運用していた場合、1.9%だったという後付け的な側面が大きく、これをもって株式の組み入れ比率を引き上げるという議論にはつながらない。
だが、日銀ETFの出口論が公式に語られるようになれば、「簿価」は別にしても受け皿としてのGPIFの存在はいや応なく注目されるだろう。〔日経QUICKニュース(NQN)編集委員 永井洋一〕
次期米財務長官がETFビジネス、市場に波紋 - Geronimo URL
2024/12/03 (Tue) 09:27:26
2日の米株式相場は下落。ダウ工業株30種平均は前週末比128ドル安の4万4782ドルで終わった。感謝祭休暇から始まった年末商戦が好調な滑り出しとなったこともあり、上昇する場面もあった。しかし、トランプ次期政権の閣僚人事や高関税政策の見通しが対外関係の悪化につながるとの見方が株式相場には重荷となった。
トランプ次期大統領は中国やインドなど有力新興国で構成するBRICSに対し「新通貨をつくらず、強大なドルに代わるほかの通貨を支持しないと約束するよう要求する。さもなくば100%の関税に直面する」との趣旨のメッセージをSNSを通じて表明した。基軸通貨としてのドルの地位を脅かさないよう求めた。
こうした姿勢はトランプ氏が財務長官候補に指名したスコット・ベッセント氏の「相場観」にも表れている。財務長官として通貨政策も担うことになる同氏は今年10月、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)に「米国が優れた経済政策を進めれば自然とドル高になるだろう」と語った。
この相場観が今、市場関係者の間で波紋を呼んでいる。ベッセント氏が創業したヘッジファンド運用会社キー・スクエア・グループが上場投資信託(ETF)の運用に携わる計画が明らかになったからだ。米証券取引委員会(SEC)に「キー・スクエア・オルタナティブズETF」という商品の運用を申請したのだ。
ベッセント氏は「英中銀を打ち負かした男」の異名をとる著名投資家ジョージ・ソロス氏の下でヘッジファンド運用をした実績がある。ソロス氏とともに英ポンド売りをしかけるなど、通貨やコモディティー、債券投資などを駆使したマクロ戦略のヘッジファンド運用者としてウォール街でも有名だ。
そうしたマクロヘッジファンドのベテランが財務長官になり、さらに同氏の相場観を反映するETFが登場しようとしているという点に市場関係者が注目する。ETF運用でも強いドルの相場観が反映されるのかどうか。
問題は、財務長官に正式に就任した後もETF運用にかかわるのかどうか、あるいはSECがこのETFの販売を認可するのかどうかだ。
このETFの販売を手がけるテマ・グローバルの創業者で最高経営責任者(CEO)のモーリッツ・ポット氏は米CNBCのインタビューで「それは現時点では何も言えない」と答えた。
興味深いのは、同氏がこの新ETFについて、債券投資による従来型の分散投資に頼る時代は終わり、分断化した世の中を反映したボラティリティーの高いリスクに対応した新しい投資運用手法をベッセント氏が取り入れたことを強調した点だ。
いってみれば、このETFは米国債を世界に販売するセールスマンともいえる米財務長官が債券投資に代わる新しい投資運用を取り入れるというものだ。
財務長官とETF運用は、利益相反の可能性はもちろん、政府高官の相場観が金融商品に反映する可能性があるという点で前代未聞のことだ。トランプ次期政権閣僚人事の縁故採用が脚光を浴びる中で、とりわけこの財務長官人事を巡り、SECの対応やベッセント氏自身の身の処し方に市場の関心が集まっている。(ニューヨーク=伴百江)