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豊かさ生む投資とは 井村俊哉氏(創論)

1:Geronimo:

2024/05/06 (Mon) 17:23:29

豊かさ生む投資とは 「負けられぬ戦い」ご法度 個人投資家 井村俊哉氏(創論)

 新しい少額投資非課税制度(NISA)を機に資産運用を始める人が増えている。投資を豊かさにつなげるには何が必要なのか。個人投資家の井村俊哉氏とアドバイザー団体トップの岩城みずほ氏が対談した。

 個人の投資への取り組み状況をどうみていますか。
 
 井村 私は大学3年から投資を始めた。当時はお笑い芸人を目指していて、しばらく生活に困りそうなので株で資金を作ろうと思った。その後実際にお笑い芸人になったが売れなかった。それでも結婚して生活を維持するために、さらに投資に力を入れた。現在の資産は約60億円。個別株を徹底して調べ、10未満の銘柄に集中投資している。
 日本の個人はかなり合理的に行動してきたと思う。1989年末のバブル高値後、日本株は長く低迷した。預貯金での運用は正解だった。
 しかし日経平均株価は2013年以降上昇に転じ、約4倍になった。日本証券業協会の調査によると、20~40歳未満の個人株主数は22年度までの5年間で6割も増えた。人口減に逆行している。投資環境の変化を理解した若い世代の一部がしっかり取り組み始めているのだろう。
 個人の投資の主流は、いわゆる長期積み立て分散投資だ。株価指数などに連動する低コストのインデックス投信で運用する。私の投資スタイルとは違うが、大半の人には合理的で正しい投資法だ。そういう「最適解」に早期にたどり着いていることも、個人が賢明であることの表れだ。

 岩城 私が属するのは金融商品を一切売らず、顧客本位のアドバイスに徹するファイナンシャルプランナー(FP)などで構成するNPO法人だ。預貯金だけだった人が、NISAを活用してちゃんと資産形成したいという相談が年代を問わず増えている。過去に投資で成功体験を得た人が、今年から枠が拡大した新NISAを使って運用額を大きく増やす例も多い。
 ただ資産格差はかなり出始めている。夫婦共働きで収入そのものも多い人が、投資でさらに資産を大きく増やしている。きちんと運用に取り組むかどうかで数十年後、さらに格差が広がると思う。
 
 投資が広がることの個人や社会への効果は。
 
 岩城 資産形成で重要なのは、まず本業で稼ぐ力をしっかりつけていくこと。もう一つのエンジンとして適切な投資が加われば、お金がお金を稼いでくれる。そして年金など社会保障を知りフル活用する。投資を含めた総合的な取り組みが、豊かな生活を目指すために重要だ。

 井村 新しい個人投資家には企業の第一線で活躍している人も目立ち、投資の学習能力が非常に高い。例えば経済統計を分析して投資先企業の決算を予測する。個人が好む中小型株の多くはアナリストがカバーしておらず、良い銘柄が割安で放置されることも多い。きちんと分析できる個人投資家が増えることで適正な株価が形成される。
 
 個人にはどんな投資スタイルが望ましいですか。
 
 井村 例えば三菱UFJアセットマネジメント社の全世界株(オールカントリー)に投資する低コスト投信、通称「オルカン」が大人気。しかし私はオルカンを買わない。オルカンに負けない成績を出せると思っているからだ。ただ今年、株価指数全体が大きく上がった中で、私の成績はオルカンに負けていた。
 朝から晩まで投資のことだけを考え調査を続けている。それなのに勝てないのは辛い。半導体の需要増や円安が一過性と思い、関連銘柄に十分投資していなかった。2月ごろ、自分の間違いに気づいて投資スタイルを変えた。挽回できると思っている。しかし「全部を買う」オルカンなら自動的にこうした銘柄も組み込まれる。やはり普通の人にとっては賢い投資方法だ。

 岩城 個別株での資産形成は容易ではない。上場企業の社外取締役を始めてその思いは一層強まった。経済環境は急速に変わる。経営の「中の人」でも予測が難しい企業の将来を、外部から見通すのは私には無理だ。リスクを減らすための多くの銘柄への分散も通常は資金的に難しい。
 もちろん個別株投資は成功すれば大きなリターンもあるし勉強にもなるが、普通の人は資産の一部で十分だ。資産のコア(中心部分)は世界に幅広く投資する低コストのインデックス投信がいい。

  下落局面は積み立て好機 みんなのお金のアドバイザー協会理事長 岩城みずほ氏

 日経平均株価は3月に過去最高値をつけた後、1割程度調整しました。
 
 岩城 18年につみたてNISAが始まったとき、投信積み立てでポイントを出すという金融機関のキャンペーンにひかれて始めた若い世代も多くいた。そういう人たちが下落局面で一斉に投資をやめてしまったのを見てきた。
 「長期・分散・積み立て・低コスト」という基本を「腹落ち」していないと同じことが起きる。積み立て投資なら下落局面は安く買える好機。全世界に投資する投信を毎月積み立て、それを途中でやめずに続けることが大事だ。

 井村 スポーツで「絶対に負けられない戦い」という言葉が多用される。しかし投資家に大事なのはそうした局面に自分を追い込まないこと。例えば中長期的な視点で投資を行い、決算が良くても悪くてもそれぞれ対応できる状態にしておく。なくなれば生活に困るような資金を投入しないことも大事だ。
 急落局面で大事にしているのは「株価は死すとも企業は死せず」という言葉だ。市場の急落の原因が投資先の業績に関係がない場合は急落局面は買い場。今回も自分は安値で買い増した。しかし最近投資を始めたばかりの個別株の投資家の中には、リスクを恐れて大きく売ってしまった人も目立つ。すると回復局面での恩恵を得られない。
 
 商品の売り手や運用会社に対する注文はありますか。
 
 岩城 金融機関に属さない独立系FPでも、金融商品仲介業者(通称IFA)や保険募集人など販売業者を兼ねていることが多い。こうした売り手や金融機関には、顧客本位の業者もいる一方、高手数料の商品を優先するケースが目立つ。例えばFPなどが講師となる無料相談会で「NISAより有利」などといって割高な保険や高リスクの海外社債を売る動きがある。
 販売手数料など商品に結びついた収益は低下を続けていく。売り手側は顧客本位の姿勢を強めないと生き残れなくなることを意識すべきだ。

 井村 平均を上回ることを目指すアクティブ投信は不人気だ。だが良い企業を選別する優秀なアクティブ投信が増えれば経営者もそれに応え、株価を意識した経営が広がる。日本企業が魅力的になり株価が上がれば、株式で多くを運用する公的年金にもプラスだ。高成績の運用者には成績に連動した高い報酬を与えることも検討されていい。
 
 人生全体を見据えた投資への向き合い方は。
 
 岩城 100歳くらいまでをにらんで資金計画を考える人が急速に増えた。以前は90歳くらいまでしか考えていない人が多く、こちらからより長い計画をアドバイスしていたのだが様変わりだ。
 まずは葬式代など最後に残すお金を決める。その上でNISAなどでたくわえた資産を余命で割り、毎年取り崩す金額を考えることを勧めている。例えば65歳時点で3000万円保有し、あと35年生きるとする。最後に残したいのが300万円なら、2700万円を35年で割ると1年に80万円弱ずつ取り崩せる。
 運用を続けながら毎年この計算をする。相場下落で資産が減った時期は取り崩し額が少なくなる。一時的に倹約気味の生活になるが、結果的に資産寿命を延ばしやすい。

 井村 「知は力なり」という言葉がある。資産を増やすことだけでなく、企業分析を通じて得た知識は本業のビジネスや転職にも役立つ。「嫌な仕事を辞めるために投資で資産を作りたい」と思っていた人が、実際に資産ができた途端、気持ちに余裕ができて仕事が楽しくなったという話も聞く。
 一方でそれほど多くの資金が老後に必要なのか。私は投資で資産を築く前は収入が少なかった。当時は通勤の人混みを避け、公園で小鳥のさえずりを聞きながら小説を読んでいた。お金はかからないがとても豊かな時間だった。
 真面目な人ほど「投資をしなければ」とあおられる。日本は社会保障がしっかりしていて過度の不安はいらない。投資のメリットは大きく多くの人に勧めたいが、全員に絶対に必要だとは思わない。

<聞き手から>マネー解凍へ 変革を続けよ

 日本の家計金融資産のうち株と投信は計15%強。約50%の米国より大幅に低い。しかし米国も1980年代初頭はそれほど変わらない比率だった。それが(1)確定拠出年金など優遇税制の整備(2)株高による成功体験(3)インフレによる運用の必要性――を背景に比率が上昇した。実は今の日本も(1)新NISAの開始(2)十数年続いた株高(3)インフレ――と、米国で投資を促した条件を満たす。
 例えば世界株指数(円ベース、配当込み)は昨年末までの10年間で3倍に上昇した。仮に国民の現預金1100兆円の1割110兆円が運用に動き、10年で3倍になれば家計と経済は大きく変わる。岩城氏が言う「運用というもう一つのエンジンが加わる」効果は大きい。井村氏の指摘のように「投資で得た知識は本業でも大きな力になる」ため働き方にも好影響を与える。
 重要なのはこの流れを定着させることだ。政府は企業のガバナンス(統治)改革や企業年金の運用効率化、金融経済教育推進機構によるリテラシー強化など多くの施策を総合的に実施する。始まっているのは単なる投資の促進ではない。凍り付いていた様々なお金の流れを解凍し、家計や企業の在り方を変える大きな変革だ。(編集委員 田村正之)

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