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蝶の道――動物学者今泉忠明(あすへの話題) - GeronimoMail

2019/07/19 (Fri) 18:53:46

 私が住む東京・下町の路地にはアジサイやツツジ、サンショウなどさまざまな植木がところ狭しと並んでいる。都会にいても季節を感じる数少ない場所だ。
 初夏の頃、路地にヒラヒラとアゲハチョウが飛んできた。柚子(ゆず)の葉の上を舞い、あちこちで腹の端を葉にちょっと付けては卵を産んでいく。目の前の葉だけで4個産んだ。翅(はね)は破れた箇所もなく美しく、蛹(さなぎ)から孵(かえ)って間もない蝶(ちょう)のようだった。路地を吹く風を受けて一気に10メートルも舞い上がり、建物の陰に消えたかと思うと、また急降下してきて柚子のあたりを飛び回る。
 以前、「蝶には道がある」という話を読んだことがある。毎日決まって同じ時刻に、同じような方向から蝶がやってくる。それが蝶の道だ。おそらく太陽の位置を基準にして飛んでくるものなのだろう。空中に目には見えない道が張り巡らされているのだ。
 翌日もまたその次の日もアゲハチョウがやってきた。2週間ほどたった時、美しかった蝶の翅は破れ目が目立ち、元気もなかった。風に吹かれると流され、辛うじて植木につかまった。大きく、ゆっくりと息をしているかのように翅を動かしていた。もう二度と見ることはないだろうと予感した。
 アゲハチョウの姿が見えなくなって10日ほどたった時、柚子の葉の上に小さな黒っぽい虫を見つけた。ルーペでよく見ると、アゲハチョウの幼虫だった。この幼虫も3週間もすれば美しいアゲハチョウになり、親と同じ蝶の道を飛んでくるに違いない。
 今、路地でつながる下町界隈(かいわい)は防災上、よろしくない地域とされる。いつまで蝶の道が残されるのか、気になる。

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